そこで風に撫でられた
ドクダミ五十号
渓流で渓魚と遊ぶ美しい装いはどんなおんなも敵わない
簡単には釣れないまるで釣り針が己の様に想像出来なければ
下流から釣り登るまるでけだものの様に
ふと気が付けば源流であるガレ場に至って
命を育む清冽な水に唇をそっと寄せる俺が居た
ああそうなんだ俺はこいつらと同じ命だと
魚篭は重く感じられ丁寧に焼いて食わねばなるまいと
俺は山を仰ぎ見た雲が山頂を撫でていた
命を喰らうその様を山は笑っていると思うた
妻子を置いてきた事などもはやどうでも良くなった
仕事さえもつまらぬ事だよなと山に言ってみる
すると涼しい風が送られてきた
そうか天気は下り坂なんだな教えてくれてありがとよ
雷雲が発生しそうな雷平
文明から遠く離れたそこで俺は風に撫でらている
踵を返すに惜しい気がしたがあまりに世間と隔絶された俺が怖くもなっていた
幸いにもこの獲物が大好きと言う娘が待っている
俺の血を受け継いだ可愛い娘だ
強めに塩をして上手に焼いて食わせよう
登るより下るのは難しい
俺は文明に向けて慎重に下って行った一里一匹と形容される真夏の渓を
風に撫でられながら