空のある雲の意味
茜井ことは

大人びていく幸福に
ついていけないもどかしさを
毛布のやわさでまやかしながら
わたしは夏を食いつぶしている

開け放した窓からは
額を撫ぜる弱風と
時点に留まる笑い声

途切れることなく
わんわん音を鳴らしたセミに
ゆがめられた空気は
少しずつその乱れを正す
隙に
ひそやかにたゆたう秋の冷気を
着々と取り込んでいる

抗えないまま
ここまで来てしまった
そしてきっとこれからも

終末の気配を感じ取って
外を駆け巡っていた子どもたちは
あまりにもよく通る笑い声に怯み
家路についてしまった

終末の気配を感じ取って
子どもたちはもういちど
めいっぱい外気を吸いこむ
季節が巡っていくことの何が哀しいのか
それを嘆くことはゆるされるのか
あふれでる疑問を失うために

とりまいてくるものに従順であることが
こんなにもたやすかった時代が
わたしにもあったはずなのに

カーテンを閉めようか
部屋を濡らすオレンジが
際立たせているのかもしれない
同じ景色に立っているのに刻まれないあの影も
いつかの死に気づいたときのざわめきも
さようならへ、その加速するスピード

時間の遅らせ方なんて
いくつになっても知らないままだけれど

晩夏の空だって
入道雲を切りくずして
夕刻の早まりを隠している




自由詩 空のある雲の意味 Copyright 茜井ことは 2013-08-05 18:35:30
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