おじさんの花火
yo-yo

ヒューヒューヒュー
ドーンと叫んで両手を高くあげ
おもいっきり地面を蹴ると
おじさんの体は
そのまま夜空へあがってゆく
おじさんの花火だった

おじさんは夜しか現れない
ビョーキかもしれない痩せこけている
たぶん仕事もないから髭も剃らない
子どもも奥さんもいないだろう
そら豆のような唇を
ヒューヒューヒューと鳴らしたりする

おじさんの花火は
一発でおしまい
空にあがったおじさんは
それきり戻ってこないからだ

ぼくたちはリクエストする
スターマインだ 牡丹だ 菊花だ
ロケットファイヤーだ ドラゴンマークだ
ゴールドショックだ 孔雀スパークだ
あれだ これだ

おじさんはしっかりVサインして
ヒューヒューヒュー ドーン
なのに
おじさんの花火はいつも同じだった

「もう花火は無理かもしれない
夏休みも終わる頃に
おじさんはさびしそうに言った
「でもやってみよう
「一発ナイヤガラに挑戦してみよう
おじさんはいつものように
地面を蹴った

ぼくたちはいっせいに夜空を見あげる
大きな銀河が斜めに流れている
ナイヤガラはどんなだろう
あの光の果てにあるのだろうか
けれども何も始まらない
星だけが星のまんま

そのとき足元で
ヒューヒューヒューとかすかな音がした
線香花火が弱い光を放射している
小さな小さな火の玉が
うるうるとしばらく浮いたあとに
ぽとりと地面におちて消えた
おじさん……

そうして
ぼくたちの夏は終ったのだった







自由詩 おじさんの花火 Copyright yo-yo 2013-08-05 06:35:10
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