イベント・ホールのこと
はるな

仕事場のちかくにはおおきなイベント・ホールがあるので、駅からつづく大通り(コンクリートで整備された、大きな歩道橋、その上にばかばかしく華やかにちらばる噴水とか、見せびらかすような緑)は  あ  というまに夏やすみらしい感じが充満してしまった。
晴れてて、駅からぞろぞろはきだされる様々の種類の組みあわせのひとびと、(宗教団体の会合へむかうひとの胸もとにはそれとわかるように名札がついている)、しゅうっと通りすぎていく自転車たち(海が近いので、サイクリング・コースをもとめてくる人びともいる)(じつに多種多様のひとびとがサイクリング・コースをもとめているし、そのことはわたしを驚かせる)。

夏はたしかに空のところに来ていて、たまにはビルのあいだに座り込んだりもするけど、たいていはまんべんなくわたしたちが夏にまぶされる。空によって。
このかんぺきな休日に、死にたいような気持のわたしでさえ、空調のきいたオフィスから這い出てマッチでたばこに火をつけるのは心愉しい。
ほんとうにこれだけの空のなかに、なんの思想もなく拠りどころのない心持ちのすばらしさといったらない。何にもさわらずに、ひとり分の空間をあけわたすにはぴったりのはずなのだ。

それからうちへ帰って玉子とハムを焼いて、パンにバタをごってりつけて食べた。
こんな日にことばのなんて無力なことだろう(蠅の実在)(イベント・ホールにやってきて、そして帰っていく人びと)(様々の種類の組みあわせの)(わたし以外の人びと)、わたしはすこし泣いたり笑ったりして、くたくたになって眠った。



散文(批評随筆小説等) イベント・ホールのこと Copyright はるな 2013-08-04 08:50:27
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