スピン
ねことら




薄くあかるいほうにながれていった。手にぶよぶよした抜け殻だけのこった。
離岸失敗のゴムボート。季節は確実にいちねんのなかで正確な四回転を刻んでいく。なにを実証できたわけでもないけど。
今日は夏。8月だ。だから切りつけてくれたひとを飾れ。片っ端から。ぼくらのデリケートを。



やっぱりなーんもわかっちゃいないね。ストローの端をがしがし噛みながら口癖のようにきみはいう。派手に失敗した前髪のせいでぶさいくになったきみはそれでも底辺2高さ100の二等辺三角形のピラミッド頂点1平方センチに属する美少女のままだ。いまいましいことに。
たとえばぼくはiphoneおためし有償アプリのコードも書けない。だからぼくには200円の価値もない。ばかっぽい理屈。でもきみに罵倒されるのがうれしい。紳士的なリプライとして。



あついねー。空調効いてないねー。今日は夏だ。夏だからプールを想う。塩素まみれの水のことを。ぼくらは化学式の表面に浮かんだスプライトの泡だ。澄みきった他集合の悪意に飲まれ、気が付けば表面張力の弱い泡などさっさとちいさくつぶれて消える。
あついねー。そうだねー。なるべく遠くで餓死したいね。そうだね。ドリンクバーだけあればいいや。フランチャイズのファミレス。国道沿いの。糖分だけで何日くらい生きれるだろうか。ファミレスは夜になるとトラックの往来に静かに鼓動をあわせて揺れる。なにかに備え、カウントを刻んでいく。



領収書、レシート、スタンプカード、たいくつで財布のなかのひとつひとつのゴミたちをライターで燃やしはじめた。ゴミを減らせばそのぶん遠くまで距離がのびる気がする。
なにしてるの。燃やしてんの。店員くるよ、こないよ。目立ちゃしないよ。
アルミの灰皿は見る間に灰でいっぱいになっていく。夏だねー。名残おしいって。えなに。まだ始まったばかりじゃん。そうだね。そうだよ。
しゃべって。キスして。付き合って。別れて。日々はきれいなサイクルのままで、それは楕円状をしている。卵のかたち。きっと安心の象徴だ。だから、ただしくスピンしていかなきゃならない。



まだ朝まで深いじかんにいる。ぼくは大切に整えられた荒野をすすんでいく。逃げてることと同義だとしても、そんな素振りは見せてはいけない。











自由詩 スピン Copyright ねことら 2013-08-04 07:32:42
notebook Home 戻る