夏休み
nonya
切れ切れのあらすじ
離れ離れのせりふ
緑と青と白とその隙間にある
無数の明るい色と寒い色
大脳皮質の砂浜で拾い集めたら
海馬のカレイドスコープに仕込んで
いとおしむように回す
見えてくるのは遠い夏休み
今にも壊れそうで綺麗だけれど
それが夢だったのか現だったのか
もう分からない
*
遥かな山の辺まで続く
大きな長方形の連なりの中で
フェーンの熱風に弄ばれていた稲穂
うねる緑
パンクした自転車を放り出して
土手に寝転んで向き合った空
悔しい青
追いかけっこに夢中で
近づくバイクに気づかなかった
アイツの頭に巻かれた包帯
気まずい白
一度も美味しいと思わなかった
道端のスカンポの味
生温い黄緑
帰り道を等間隔にさえぎった
長いはさ木の影
しょっぱいオレンジ色
半分嘘の絵日記
やるせない24色
用水路の彼方に盛り上がった
フリーハンドの入道雲
ふくらむ白
ラジオ体操のカードをはためかせて
駆け抜けるトマト畑の向こうで
水蒸気を呼吸していた弥彦山
かすむ緑
村はずれの隧道を抜けると
いきなりせり上がった水平線
はしゃぐ青
鳥居の横に遊具を作ってしまう爺や
大人には変人だが子供には人気者だった
爺やの歯の抜けた笑顔
ちょっと淋しい茶色
隣町の花火に見惚れて
とけかけたシャービック
濃密な黒と色とりどり
僕より先に大人になったあの子
微かに痛い透明
*
海馬のカレイドスコープを背負って
時間の砂の堆積の中から
緑と青と白とその隙間にある
無数の明るい色と寒い色を探し当てる
夏休みの密かな課題は
僕の背中の裏側に
あの頃のざわめきを甦らせる
それが夢だったのか現だったのか
今ではもう分からないけれど