羽蟻
ただのみきや


――おや
結婚飛行に乗り遅れたのかい
風に煽られ一人きりで
なんとかしがみついたものの
車のフロントガラスじゃ洒落にもならないよ
こんな剣呑な崖を登り切ってみたところで
そこには余計強い風が吹いているだけさ
おまえさんを喜ばすものなんて何一つ有りはしない
天辺まで飛んでその目で確かめてごらんよ
すっかり忘れてしまったのかい
背中に翅があるってことを

神様気取りのおせっかいは柄じゃないが
たまたま掴んでしまったものから手を離せず
必死にしがみついているその様は
まるで自分を見ているようでならないよ
なあ おまえさん
翅があるうちに飛んでごらんよ
あと一度だけでも構わないさ 
二度と飛べなくなるその前に
「光陰矢の如し」ってね
あとは穴倉で昔の夢を見るのが関の山
蟻も人もそんなに変わりはしないのさ

――聞こえている?




自由詩 羽蟻 Copyright ただのみきや 2013-08-02 21:20:33
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