flower
佐東
やさしい体温を
手放した
幼い夕ぐれの あわくひろがる
虹彩のふちで
一日中
なんにも
口にしていなかった
なんて
いのりのことばみたいに
くりかえしては
いちまい いちまい
花びらを ちぎる
(凌霄花の鮮やかなオレンジ
おぼえたての はなうた
それから)
ちぎられた花びらは
空よりも たかい場所
から
夕立のように降りそそぐ
ちぎり絵の
街並みの隙間を うめて
夜にしか 咲かない
名まえの つけられていない
花が 開花する
(水と
水を巡る
色のないたましい)
あなたは
たばこに火をつけるような仕草で
わたしの名まえを
できるだけ ちいさく
ちいさくささやいて
つめたい 夏のひかり
を
確かめるように
あなたの首すじを
あまがみしてあげる
から
(すこし湿ってて なまあたたかい
樹液のように
じゅわ。って ひろがる)
いくつかの喃語で
からだを かさねる
夜
手 つなご
だきしめて 口づけするように
黒ずんでゆく 夏の街で
どれほどの名まえが
ひつようだったの
flower
(ゆれている
名まえのない
花が)