本当のこと
葉leaf

色んな場所に旅行に行きたい
過ぎ去っていく景色を眺め
体の軌道が未知の空間を抉っていく
その新鮮な熱を肌で味わいたい
新しい人との出会いで
表情が更新されていくような
そんな旅行をしたい
(それは本当だろうか
 本当は庭をずっと眺めていたい
 いつまでも所有できる空間に
 どこまでもうず高く自分の存在を降らせ
 旧友である自分との気楽な雑談に
 変わることなく閉じこもっていたい

時代の最先端にいたい
溢れかえる情報が渦を巻いている
その動きに巻き込まれる快楽を
歴史のリズムを口ずさむようにして
軽快に乗り回していきたい
華々しい活躍や弁舌の数々
その栄枯盛衰を写実することに陶酔していたい
(それは本当だろうか
 本当は昔の哲学者の書いた本を読んでいたい
 太古から伝承されている神話の世界を何度も繰り返したい
 減るものも加わるものもなく
 ただ重みを増していくものを
 いつまでも振り子の軌道に閉じ込めておきたい

社会に開かれていたい
自分を取り囲むすべてのものへと
鋭敏な感受性を差し伸べ
無限の他者や異質な社会へと
その超えられない裂け目をいつでも超えていきたい
社会に開かれると同時に社会が自分の中で開くように
(それは本当だろうか
 本当は自己に対して一番開かれていたいのだ
 自己と他者との対立や相克によって
 より明らかになっていく自己を鏡として
 何も超える必要などなく
 ただ足場をいつまでも踏み固めていたい



自由詩 本当のこと Copyright 葉leaf 2013-08-01 14:29:45
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