おれは番犬だ
殿岡秀秋

おれの家にはカミサマがいる
毎朝公園を散歩する
おれがよりそって歩くので
怪しげな影は近づかない
近所で揉め事だ
カミサマを守っておれが出ていく番だ
言葉に気合を入れる
四十年近くも会社勤めをして
吠える場面も幾たびかあって
声帯もこころも鍛えてある
ナメンナヨー
とマア下品な言葉使いはしない
毛並のいい犬のように
姿かたちを整えていないと
近所の奥様たちに
そのうち尻尾を踏まれてしまう
カミサマは褒美をくれる
朝はサラダとスープ
晩にはビールがつくこともある
おれはしっぽを振るかわりに
ありがとうといって後片づけを手伝う
疲れやすいカミサマのために
毎朝マッサージをする
カミサマはつやつやでしわしわの腕で
春から夏へのように伸びをする
カミサマにもストレスがある
魔物のような口の礫で
おれを攻撃するのはそのはけ口
わかっていても心臓に当たると痛い
視えない鎖を切って逃げ出したくなる
毛並の乱れでカミサマは察知する
「だったら野良犬になりな」
凍る声で言われておれはうずくまる
会社の犬であったころより
気持が落ちついて水もおいしい
カミサマの口もいつかは重くなる
通りすがりの人に挨拶がわりに軽く吠えて
今日のところは番犬のまま


自由詩 おれは番犬だ Copyright 殿岡秀秋 2013-08-01 04:34:49
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