創造する者
ヒヤシンス


その時、私には見えたのだ。
彼の繊細なすべての指たちから薄く透き通った白い糸が出ているのを。
彼は己のリズムに体をくねらせて、黒い母体の敏感な部分に触れているのだ。
そしてその彼の指は決してその母体から離れようとはしなかった。

彼は彼だけのたった一つの世界を今まさに創造しているのだ。
彼は真剣に命を削っている。苦痛と快楽にその表情が歪む。
泉のように湧き出る彼の感性はもはやその指の動きを止めさせない。
命の尽きるまで彼はその楽の音を響かせるのだろう。

創造する事がこれほどまでに壮絶なものだとは。
彼の自由自在に動き回る指に満たされて快楽の音色が響く。
透き通った糸は粘りを増してさらに母体に纏わり付いてゆく。 

その時、私には見えたのだ。
彼の創造しているものの何たるかが。
彼は世界を創造していたのだ。実り多き豊かな世界を。


自由詩 創造する者 Copyright ヒヤシンス 2013-07-30 23:43:51
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