言うまでもないこと
佐々宝砂

私は大腿骨である
私は頸骨である
私は肩胛骨であり鎖骨であり肋骨であり
胸骨であり恥骨である

私は横紋筋と平滑筋である
私は繊維質の束である

私は気嚢であり胃腸であり
胆嚢であり十二指腸である
私は膵臓であり心臓である
私は柔らかい袋の塊である

私はリンパ管である
私は血管である
私は尿管である
私は細い管の連なりである

私はまた髄であり膜であり腺である
化学物質が私の神経系を支配する
複雑に構成された有機物である私は
単純な無機物である水をごくりと飲み干し
有機物でも無機物でもない言葉というものを
中枢神経系から絞り出す


言葉よ
願わくは脳内麻薬物質を律せよ
骨と繊維と袋と管と髄と膜と腺とを
私自身の人体と他者の人体とを
呪縛し支配し思うままに動かせ

言葉よ 言うまでもないことだが
私の身体はすでにおまえそのものである


自由詩 言うまでもないこと Copyright 佐々宝砂 2005-01-04 01:26:07
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