人間社会でも猫の事務所
Neutral

この人間社会で 僕達はたった二人猫だった
その学校なら猫でも入れるというから
僕は早速転入したんだ
それが出会いだったのだけれど
だけれど クラスメイトは犬ばかり
僕ら二人とも やかましく吠える連中には
勉強でしか勝ちようがなかったよね

卒業式が終わった教室で
君はアルバムを取り上げられて
僕の後ろの席で 教室の一番奥で小さくなっていたね
みんなが罵詈雑言を綴りながら
ひとりひとり教室でアルバムをまわしていくその光景に僕は爪を研ぎたかった

誇り高い血統のもとに君が生まれてきた事なら
君の毛並みを一番近くで見てきた僕だから分かる
親の顔すらろくに見たこともない雑種の僕は
触って撫でて 抱き合うたび
ああ 君になりたいな と
涙の様な感情を胸一杯に広げていたよ
そんな僕達の事は犬どもには分かりはしない
奴らには大人になった所で社会の犬になるしか道はないのだから

最後に僕の所にまで周ってきたアルバムの寄せ書きは
信じられないくらい汚い言葉で埋め尽くされていた
僕は前の席の奴からマッキーを取り上げ 握りしめる
後ろから聞こえる君の泣き声をかき消すように
その腕を必死に動かしていた
犬の糞だらけになったページを
真っ黒に塗りつぶそうと 必死に腕を動かしていた

まるで何年も使い古したかのように
ぼろぼろになったペンを投げ捨て
僕は誕生日プレゼントに君からもらったボールペンで
真っ黒になったページの たった一か所残された余白に殴り書きをした

 「くじけるな
    あきらめるな
       泣きながらでも前を見て生きろ」


それから二人で同じ道を歩んで
二人で違う道に進むことを決め
僕はまた気ままな野良猫に戻った
なんと法律家になった君とは違い
僕は猫のままであり名前はまだ無い
馬鹿犬どもを黙らせる為の力が法律だと信じていたから
正直今でも君が羨ましいんだ

君の事も忘れそうになったある日
やあ久しぶり と カフェのテラスで
君が仕事を辞めていた事を知った
僕も猫だったよ やっぱり人間なんて嫌いだよと
開口一番君は言ったね

猫の彼に言わせれば
人間の法律はまるで
この地球を学校のように考えている者達の
卒業アルバムの寄せ書きの様に見えるらしい
だから 彼は猫に戻る決心を決めた

法律にはじかれ 犬になる事を恐れ
この人間社会で 僕達はたった二人猫だった
人間のエゴで家族から引き離され
人間の都合で飼い慣らされて孤独を強いられる猫のように
いつだって ヒゲだけは 敏感でさ

今でも 許されるかな
じゃれあいながら 二人で馬鹿な犬達を笑って過ごす事が
ふたりぼっち ねえそこの貴方 僕達の母猫になってくれませんか
しょうもない何かを必死で守る手があるなら
どうか僕達の毛並みを撫でてください
もし本当に もし本当に
僕達が猫だったなら


自由詩 人間社会でも猫の事務所 Copyright Neutral 2013-07-29 23:07:11
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