うみのかみさま
佐東
うみのかみさまは
波のうえのぼくじょうで
たくさんのひつじたちと暮らしています
うみのかみさまは
わすれっぽいので
ときどきながされてしまうひつじたちのことを
いちいちおぼえていません
ながされてしまったひつじたちは
波うちぎわで
めえめえあそんでいます
やがて
ひとのかたちをした砂が
砂丘のうえにさく星のところまで
ひつじたちをはこんでゆきます
はこばれたひつじたちは
一頭ずつ浜木綿のつぼみのなかにはいります
ぴょこんぴょこんとはねたりしています
ひつじたちは
波のうえのぼくじょうで
すごしていた日々のことをおもいだしながら
ねむりにつこうとするのだけれど
ねむれない夏の子どもの
ベッドのうえにかりだされたりします
夏の子どもはひつじたちに
絶え間なく反復する波をとびこえさせてみたり
ひつじたちの耳をぎゅってにぎったりしています
そんなひつじたちの様子を
うみのかみさまは
七月の
とおざかる
海なりのなかで
夕なぎいろのほそい目をしてながめています
ないているのか
わらっているのか
わすれていってしまうのか
* * * * *
うみのかみさま
ないしょのはなし
ちいさなこえで
はなそ
はなれ ばなれ
でも
泣かないから
ね