「ふるさと」
佑木

納期の迫った仕事に気持ちを せきたてられながら
ラジオを流していた

テレビ番組の「しろうと のど自慢」が
地球の裏側のチリで中継されていて
そこであなたは歌い始める

ブラジルやチリという国へ
僕等の先輩達は夢と不安を抱いて渡っていった
あなたの事は何も知らない

ラジオなのであなたの顔も姿も見えない
あなたは日本の唄を歌い始める

「ふるさと」の曲が流れる
この歌がこれ程 胸を打つとは 何という事だろう

あなたの澄んだ細い声が流れてくる
不安のなかを生きてきたあなたが
夕日に向かって歌っている姿が浮かぶ

目に涙が溢れてどうにも止まらない
慌てて拭き取るが また溢れる

納期の迫った仕事が出来ない
「ラジオ聴いてる場合じゃなかった・・・」

移住してから今日に至るあいだ チリの地で
故郷を思い幾百回と
若き頃より 農場の労働の合間に

遠い西の空を仰いで あなたはひとり
歌いつづけてきたのだろうか

ふるさとの懐かしい山々 田畑 吹く風
夕日に向かって歌っているあなたの姿が
浮かんでくる

あなたの声が 日本人の澄んだ細い声が
日々を精一杯に働く世代にも届いている


自由詩 「ふるさと」 Copyright 佑木 2013-07-27 15:59:25
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