伏流水
佐東
嘗て
王国があったとか
そんな話を
あなたの中耳に
棲みついている
遠浅の潮音が
夜毎
瞼の上の白い渚に
刻みつけようとするのだけれど
水分を含んで
重たくなった夏服を
わたし
いまだ脱げないでいる
(水かさは増すばかり。)
皮膚のかわりに
水色の
うすい膜が
身体の表面を覆っている
寝返りをうつたびに
喫水線を越える
夢水
(水の中へ手を伸ばす。)
指さき
から
指さき
へ
手わたされる
ように
あなたの伏流水が
わたしの中へ
(あおい夢をみている。)
水を抱く
そうして
水の名まえを
失くしてしまう