黒薔薇
ヒヤシンス


今夜もまた私の血液を机上の黒い薔薇に注ぐ。
私は時々赤を見るのが無性に嫌になる。
他人の鮮血も、この机上の赤い薔薇も。
だから私はそういう時、この薔薇の赤い花弁を自分の濁った血液で汚すのだ。

このところ毎晩続く発熱を少しでも和らげようと、私は行為に走る。
その行為が意識的であろうが無意識的であろうが気にしない。
そもそも人間の意識なんてあてにはならないものだ。
それでも行為の前にひれ伏す意識など見たくない。見たくはないのだ。

絶えず訪れる春の嵐のように私の頭は混乱する。究極の矛盾。
日々は、その意識を意識して徒に過ぎてゆく。
もしそれすら感じ取れなくなってしまったら私はどうなってしまうのだろう。
飴細工のガラスを端からこの拳で砕いてゆくのだろうか。
 
狂った道化に興味は無いのだ。偽物の瞳などその奥を覗けばすぐ分かる。
けれどもしその瞳の奥に何も映っていなかったら?・・私は恐ろしい。
見誤りまた同じ事を繰り返すだろう。・・・恐ろしい事だ。
この世の夢や希望を信ずるこの心は戸惑いもせずに反転してしまうかもしれない。

行為で汚された机上の薔薇が月明かりを受けてギラリと光っている。
戦慄の黒い薔薇は刻一刻と私自身と重なってゆく。
微熱を伴う頭痛に促され、私は黒薔薇の花弁を一枚ずつ千切りながら冷たい舌に乗せ、
ゴクリという確実な音と共に一気に飲み込む。私の夢や希望を取り戻す為に・・・。


自由詩 黒薔薇 Copyright ヒヤシンス 2013-07-22 01:16:04
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