翅虫
マーブル



月のみえない夜空をみあげた
シャイな星が雲の隙間かくれんぼ
水面を蹴った水飛沫の粒のようにキラリと
脚に絡みつく風が冷たかった
心地良いからカーディガンを腕まくり
玄関の階段座り白いペンキの壁もたれていた




あいにく今日は待ちぼうけだ
ギターも不愛想にしていた
ひまつぶしに擦れたAマイナーと
くしゃみが二回やけに響く夜だ
おもわず一人小説読んで流した泪はあたたかい
紅茶ラテはほんの少し熱かった
頬杖ついて願い事は増えつづけるばかり





つぎからつぎへとこぼす言葉にリズムと色を重ねたい
ありふれてくだらないものたちを
愛するのには理由があるって本当
車輪にもつれた感情を
ビルのちいさな灯りを
電車に揺られる人達の疲れた顔にふきだしマーク描いたり
そっとしずかに助け合うスカートの下の翅虫になりたい





今日やさしくなりたいと思ったのは
父がむせび泣く夢をみたからで
会社から帰ってきた父を玄関で待っていたのも本当のことで
音楽をカーディガンのポケットに忍び込ませて
浮遊感にひたっていたのも
しばらく行っていない東京の夜景を思い浮かべていたのも
本当の本当のところで
うわのそらだったわけで
通り過ぎる時間を掴めないかと試みたよ
すぐに砂時計の砂は落ちていったよ
それでも思い返すことは沢山あったはずだよ



世の中世知辛いものになったねえと
もう何年前から言われてきているんだろう
それでも生まれてくる命は儚くうつくしいのかと
あざ笑ってもけっきょく泣き虫はきれいだったかと
かもめのジョナサンに答えを聞いてみたりして
冗談めかしにローリングストーンズになってみたい
なんて思ったりもしている





わたしは過去を遡り逆上がりし夕陽をながめた
未来に不安と期待を混ぜて風を待っている
宙返りする夢物語の行き場
どこへ行く?
君はどこへ行く?




自由詩 翅虫 Copyright マーブル 2013-07-21 21:15:16
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