星からおちた小さな人
あおば

               130721


切り倒されて朽ちた幹には
王子様のような茸が生えて
胞子を出して枯れるのだと
教えられて育つ
屋根から転げ落ちて
背中を打った友人は
テレビアンテナを調整中で
小遣い稼ぎのアルバイトだったが
雇われでなかったから
痛い目にあったけど
誰からも慰められず
依頼者からも
ドジな奴
使えない奴と罵られ
居たたまれなくなって
町内から姿を消した
打撲傷で済んでよかったと
僕は思っていたのだけど
本人は
幸運とは思えず
不運と思っているだろう
屋根の上は危険である
しかも、
屋根は必ず傾斜がついている
傾斜のついていない平たい屋根もあるが
雨の多い地方では
雨漏れなどのトラブルの元となるから
出来れば止めた方がよいですと
元大工の棟梁がなんとなく呟くが
誰も聞いていない


落ちた栗の実は腐る前に誰かに拾われる
野郎自大に庭の栗の木は叫ぶ
落ちた友人はどこかに消えた
落ちた雨は樋伝いに地面に潜る
潜り損ねた雨水は辺りを汚し
家の主婦に嫌われて
元大工の棟梁が仕方なく対処する
樋が腐った栗の木の葉で詰まって
雨水は溢れて壁伝いに流れ落ちる
流れた跡は薄汚い模様となって
いつまでも消えないから
詰まった腐った木の葉を取り除かなくてはならず
年老いた棟梁はアルミのハシゴを掛けて
おっかなびっくり一人で屋根に上がる
今では弟子もいないから
自分でやるしかないと思いこんで
危険な作業をしているのだが
落ちた場合の補償はどうなるかは考えない
落ちた場合
生きているかどうかは少し考える
自分の命と
腐った木の葉とどちらが価値があるかを考えると
自分の命の方が価値があると考えたいのだが
目の玉はそれを認めないようなので
仕方なく今日もおっかなびっくり屋根に登る
これが生涯最後の危険であって欲しいと常に願っているが
木の葉は日々落ちて供給を絶やさないから
明日も続くかも知れない
しかし
落ちれば終わりになる
楽になれると思うが
簡単に落ちるわけにも行かず
おっかなびっくり屋根に登る
誰かに代わって欲しいと思うが
この辺には屋根に登ろうとする人は誰もいないようだし
修理業者を呼ぶ金は目の玉は工面しないから
落ちるまではガマンしなければならない
ガマン比べはいつまで続くのだろうか
豪雨の季節が来る前に
樋を綺麗にしておかなければならないのは承知だが
今日は風が強い
おまけに少し雨も混じっている
瓦は滑りやすくなっている
落ちるとしたら今日だと思うが
今日はこの家の目の玉の誕生日だから
今日落ちるわけにはいかない
縁起でもない
精神的ストレスでトラウマになったと
訴訟を起こされる可能性は大である
然り而して
元大工の棟梁もこの町から消えた
掃除を終えていない樋の中には
乾涸らびた茸が何本か生えていて
もうじき胞子を飛ばす手はずを整えていたのだから
丁度よいあんばいだと消息通は語るのだが・・、
残されたハシゴを廃品回収業者に1500円支払って引き取ってもらう
お金を払うのは僕なのがどうしても理解できない
目の玉が認めないものは存在価値がないのは分かっているが・・。






初出 「あなたにパイを投げる人たち」の即興ゴルコンダ(仮)
  http://anapai.com/tanpatsu/goru/
  タイトルは、クローバーさん




自由詩 星からおちた小さな人 Copyright あおば 2013-07-21 20:40:28
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