わたす
砂木

死体って本当に動かないんだ
父さんの死体は 父さんと言っても動かず
とても不思議だった

死体だけども 父さんと変わらずに呼び
唇を水に浸した綿で拭いたり
保冷剤を取り替えるのを 成る程と見たり
お線香をあげたり お水を変えたり
御団子もあげたけど 父さんは起きて食べない
呼吸もしていないのが不思議だった

火葬して骨になったら 私は耐えられるのか
長女たるもの頑張る気でいたが 自信はなかった
しかし 父の骨は思っていたよりずっと白くて立派で
忽然と表れた骨になった父も 父さんなのであった

毎日 畑で鍛えた体だからな
側から聞こえてきた声に 誇らしささえ感じ
私が拾わねばと むきになって骨を拾ったが
箱の中に入った形になっても 父さんなのであった
ちっとも恐くなかった

お墓に入れる前に 箱を抱いた
お墓に入っても 父さんだった
死んだ人ではなかった
お墓の中の骨に 父さんと呼びかけながら
会社の帰り かすかに見える新しい墓標に眼をこらす

死ってなんですか 父さん
変わらずに 父さんじゃないか

でも 安らかに死を
頼む 死よ 安らかなる死後を 

笑い顔の遺影のように
安らかなる死でありますように


自由詩 わたす Copyright 砂木 2013-07-21 16:50:15
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