【風】夏風オムニバス
るるりら

【ロゼット風】


 両手両足は よく動く パペットマペットをつけたみたいに
 たんぽぽの根は 大地に動く
 たんぽぽの種は 空に動く
 いまは 雨で どこにもたどりつけないようでも

 高校生の光合成 おはなばたけだと罵り合いながら
 おはなばたけのように うつくしい
 おはなばたけのように 虫がくる
 校舎の中では どこにも たどりつけないようでも

 根出葉の円盤が ダビィンチの設計ではないことは
 ダビィンチも光合成の真似をした あかし
 ものごとを分解しては光にかえる

 光ってしまっては泣いてしまう
 泣いてしまっては 思い出にする
 思い出にするには いまなお まぶしい 




【どこふく風】   


遮断していた部屋は しめっぽい空気が淀んでいて
引出しを開けてみると 碁石があった
父の たたずまいが あざやかに蘇る 
たのしげにしている 父の日常
おもわず 鼻の奥が ツンと涙の匂いがしはじめた

流通しはじめた思いが つぎつぎ生まれ 堰き止めても
あっという間に わたしは満水となった
くっぷんくっぷんと 浮き輪は ういていて
浮き輪の上から わたしは 二本の脚をばたつかせている
お父さんの笑い声が 足を わらっていたが、わたしは 溺れていた

水の中には 大勢の人の体の中に おとうさんの体もあり
それは わらっていた
上下が反転した世界では 叫んでも 声にならない
あの日 わたしは死ぬかとおもった

窓を開けると エブリシングブルー
雲ひとつない おひさまのした

あの日 死ぬかと思った わたしは生きていて
とおさんは あちらに逝った


わたしね

さいきんやっと

父さんと いっしょに笑えていると 思う。



【風の中の △】【歌の中の□】【夢の中の○】


いまは 全部 わらうように 一気にさいた カサブランカ
風の中におなじような角度で つったっていた カサブランカ
しろき切っ先が Mの字のように すこし広げた カサブランカ
名画の中では いつもマリア 心の中では いつも乙女


風の中の山郭
歌の中の視覚
夢の中の風を吸い上げて 

カサブランカが 興している 甘い風




自由詩 【風】夏風オムニバス Copyright るるりら 2013-07-19 02:56:04
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