雨のなかの馬
石瀬琳々

雨のなかの馬
時間さえ檻のなかに閉じ込められる
そっと名前を呼んだ
季節が過ぎて青いさびしさが満ちてくる


後ろさえ振り向かず駆けていこうとする
雫のビーズをまき散らす夢よ
どうか名前を呼んでほしい
私は君のために生きる
(そして指先をのばすウンディーネ)


雨のなかの馬
目の裏側に降るかなしみを忘れて
静かに目を閉じると
遠くで光るものはいつしか海になる


世界はこんなにも君を受け入れている
雨は降りそそぐまぶしい光のように
君の心をも頬も濡らして過ぎてゆく
すべてが美しいと言って
(たとえばにくしみも涙さえも)


君よ、海があるならば
こぼれないように手のひらに包む
海があるならば
その胸の貝殻の響きを聴こう
海があるならば
くちびるとくちびるを合わせて息をする
君が溺れないよう 君を抱きしめるよう
(そして指先をのばすウンディーネ)


雨のなかの馬
ふるえながら泣きながら走って行け
瞳のなかで海があふれている
太陽がのぼり月がのぼり星が輝く地平
雨のなかの馬、君は、




自由詩 雨のなかの馬 Copyright 石瀬琳々 2013-07-18 13:34:42
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