四重螺旋
本木はじめ

兄は崖ましたに見ゆる睫毛越し美意識以前の黒髪を抱く


弟が洪水前夜飲んだ水うしなわれてゆくものがけだるい


姉をさらえば十億年弥勒に届かぬ短き長さ噛み砕く


妹の髪梳く流れ見て溶けるアイスクリームの冷たき模様


兄は後悔ゆびゆびに燃える珊瑚の渦巻く模様に反転す


弟は二十四時間まえのわれ兄よ兄よと呼びかけるまで


姉は子供じみたブランコの夕暮れ砂山窒息を懇願す


妹は蜘蛛 網膜の結晶体のごときむらさき心中を果たせない


兄は京都落雷の嵐山付近にて見つけ出す春じみた変愛


弟を真向かいの教会からあふれ出すひとびとにさらけだす


姉がついばむ鴉のころも安価で売られんとするを拒む


妹は恋にやぶれて鋼鉄の銀の柱を操っている


兄が禁断症状発火する有機物に対して恐れを為す妹の脚


弟を埋める孕むことのできない選択肢を欲しがるがゆえに


姉がいない食卓の卵の殻や際限なき夜の降り注ぐ屋根


妹は大白鳥の食むの薔薇今夜はいばらの四重螺旋



短歌 四重螺旋 Copyright 本木はじめ 2005-01-03 01:06:50
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