エリザベス
nonya


幅の広い
プラスティックの襟を
唐突に立てて
上目遣いで
僕を見つめる君は
結婚しなかったエリザベス?世ではなくて
去勢されたうずまき猫

好奇心のまま
何処かに突っ込んだ
左の前脚を
化膿させて
不条理で屈辱的な
貴族の芳香もなにもしない半円錐形の襟を
強制されたうずまき猫

時々
自分を確かめようとして
うっかり
透明で無愛想なプラスティックの内側を
舐めてしまう君は

時々
自分がもどかしくて
うっかり
透明で無慈悲なプラスティックの外側を
掻いてしまう君は

自由と引き換えなら
前脚の一本くらい無くてもいいやなどと
思ってやしないだろうか

明らかに自由で
君よりも器用な僕の手と舌は
未だに自分の実体を確かめたことがないし
もどかしさを言葉にすることもできない

コツコツと

そんなことを咀嚼していたら

コツコツと

わずかに開いた引き戸の外側を
エリザベス?世の角で
君がしつこくノックしていた

溜息まじりに引き戸を開けると
長い尻尾でプライドを保ちながら
君は堂々と入場してくる

あのさあ

君には
招き入れてくれる者がいるけれど
僕は君のより
もっと透明でもっと幅広い
エリザベスカラーをつけているものだから
入るに入れないドアなんて
いくらでもあるんだよ




自由詩 エリザベス Copyright nonya 2013-07-13 20:01:51
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