手紙
シホ.N



電話は苦手なので
手紙を書いた
長い長い手紙になった
読み返して
不要なところを削っていくと
短くなった
三行になった
そのうち二行は
はじめの挨拶おわりの挨拶
こういう手紙特有の冗長な挨拶は
好きじゃないと僕は思った

窓から夜気がしみこんでいた
小バエが一匹便箋にとまった
失礼なやつだ
虫の一匹や二匹
壁のあたりを這っ飛んでいる分には構わないが
いやでもこの便箋にとまるというなら
僕はもう容赦しない
と指で小バエをひねりつぶした
虫にも世界観があるものなら
この僕の手は
神の手

そうこうしている頃に
僕は電話をもってないわけだから
電報が来た
   ○○死す、連絡せよ
僕は便箋の上の
虫をつぶした後の
黒っぽい粉のような跡を見つめながら
それが○○だという気がした

それで僕は一晩中かかって
ていねいにていねいに
その便箋を折り畳んだのだ
○○は死んでしまったのだから
僕にとって○○はずっと
便箋の黒いしみであり続けてもいいわけなのだ
しかしそれは
永遠、というようなものではないし
そのようなものは僕の手にないのだし
黒いしみはただやはり
汚らしいしみでしかないわけだった

そんなふうなことを考えながら
惰眠をむさぼったりしているうちに
僕はまた
手紙をだしそびれてしまった
そして○○はいない
僕はやはりこうしてずっと
手紙をだしそびれつづけるだろう


自由詩 手紙 Copyright シホ.N 2013-07-13 03:28:16
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