なんて思い出が
平瀬たかのり

 水金地火木土天海冥
 そのすべてが一直線に並ぶという
 惑星直列というとても珍しい現象です
 今夜、外に出て空を見上げてみましょう

 先生が言ったとおりにしたボクだったが
 土星の輪っかも木星の目ん玉も火星人も
 見えるわけでなく
 しょうもなぁ、はよ帰ろ
 ローリングソバットで四分の一回転したら
 女の子がひとり夜空を見ていた

 目が合うと彼女は
 ドギマギしているボクを見てすこし笑って
 すっと伸ばしたしなやかな腕の先
 指さしたサーカスのテント
 休憩時間に抜け出してきたの本当はいけないんだけど
 ボクはスパンコールの彼女にドギマギしっぱなしで

 タイガーマスク、好きなんだね
 え
 ほらさっきのローリングソバットじゃん
 あ、うん
 ねえ、見てて
 クルリッ! 蹴り足まっすぐ伸びきってちゃんと一回転
 ボク、口あんぐり
 へへへ、わたしも好きなんだタイガーマスク
 それから
 今度は空を指差して
 ほら見てあれが金星よ
 ボクは彼女をずっと見ていたかったけれど
 ああ、うん、そう、へえ、なんて言いながら
 そのときいちばん明るく光っていた星を見ていた

 
 なんて思い出があったなら
 ぼくはどんなこれまでを過ごしてきただろうな 


自由詩 なんて思い出が Copyright 平瀬たかのり 2013-07-12 20:38:52
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