えのころ草
春日線香

雨が降らないうちに
えのころ草を刈りにきた
町外れの原っぱには風が吹いて
無数のえのころが揺れている
どれも丸々と太って
互いに体をこすりつけながら
刈り取られるのを今か今かと待っている
早速、籠から鎌を取り出して
ざくりざくりと刈っていけば
それは気持ち良さげに目を細め
もっとやってくれ
もっと鋭い刃で切ってくれと
ビロード色の鼻を鳴らす
夢中で鎌を動かしていると
やがて西の空に雲がわき
慌てて籠を背負って引き返す途中
降り始めた雨に追われて
近くのお堂に逃げ込む
しばらくは雨宿りかな
と横に置いた籠の中では
濡れたえのころが目を覚まし
ついに自らの不幸に気付いて
ぎっぎっ、ぎっぎっと
繭に包まれた蚕みたいに
小さな体を震わせる


自由詩 えのころ草 Copyright 春日線香 2013-07-12 18:14:58
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