奈落へ
壮佑


コーヒーをひと口飲むと
下腹部に非常に強い便意が襲ってきた
そう言えば今日は朝方から
何となくお腹が妙な具合ではあった
この店では駅構内のトイレに行くしかない
けっこう遠いんですよこれが
ふうぅ〜 何とか治まったようだから
我慢して自宅に帰ってゆっくりと……
すぐにまた強烈な便意が戻ってきた
うううぅ〜〜ぐむむううぅぅ〜
「ランチセットお待ちの方!」
ウェイトレスのカン高い声が今日は癪に障る
それより前のテーブルでお喋りしている
女子高生達に感付かれてはならない
上体が左斜め前屈約四十五度に固まるので
パソコン画面に見入る振りをする
ふうぅ〜 いくぶん治まってきたが
あぶら汗を拭うお手ふきを取ろうと
身体を少し動かしたとたん
またまたグググゥと鋭く刺し込む感覚
おのれぇ! もう辛抱たまらん!
意を決して席から立とうとした瞬間
なぜか顎関節が脱臼した(アゴはずれた)
次に左右の肩関節がはずれ
左右の股関節もはずれ
という具合に次々と
上は環椎後頭関節から
下は恥骨結合や足指の関節まで
全身の関節と骨結合がはずれていく
最後に頭蓋骨の縫合が分離しだしたが
つけ足しに両の眼玉が跳び出して
ヨダレ垂れ流し状態の口のあたりまで
ダラリとぶら下がった
ああ 私もうダメ 立てない
椅子に放置された越前クラゲが
さらにドロドロに液状化したような気分だ
その時 轟音と共に床が陥没して
周囲の客が驚いている中
私は凄いスピードで
椅子ごと地中深く落下して行く
排便関係の神経や肛門括約筋は健在なのか
激しい便意だけは変わらず襲ってくる
こうなったらいっそのこと
ど派手に炸裂しちゃった方がいいと思う
奈落へ落ちて行くというのは
なかなか得難い体験ではあるが
トイレの後にしてくれた方が良かったと
私としては言わざるを得ない!




※文書グループ「コーヒーショップの物語」





自由詩 奈落へ Copyright 壮佑 2013-07-11 20:27:03
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