朝方の嫉妬
ヒヤシンス


あなたはあなたのとっておきの古ぼけたカメラを手に取り、
にやにやしながらその背中を開けて一本のフイルムを装填する。
あなたの細く美しいその指で、とてもやさしく、繊細に。
私は暖かい暖炉の前であなたの指に嫉妬する。

フイルムを蓄えてほんの少し重たくなったそのカメラに嫉妬はしない。
ただそのカメラをやさしく愛撫するその指に私は嫉妬する。
病的なほど青白く細長いその指に。
あなたはそうとも知らず、白い壁に向かって二、三回シャッターをきる。

ああ、私はあなたの指になりたい。
あなたの指になって何処へゆくにも何をするにも共に在りたい。
あなたはそのカメラで今度は何を切り取るのだろう。

首からカメラをさげてあなたは朝の散歩に出かける。
ああ、私があなたの指だったら。もしも私があなたの指だったら、
あなたの気に入る景色の表情をこれ以上ないほど美しく演出できるのに。


自由詩 朝方の嫉妬 Copyright ヒヤシンス 2013-07-11 14:29:41
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