地下のカフェで
ただのみきや

太陽のしたり顔を避けて
君の水辺へ下って行きなさい
蜉蝣の翅のように影を透かしながら
夏の斧で頭を割られるその前に

美しく人目を避けながら
地下のカフェへ逃げ込みなさい
壁画を歩く蛇のように
消え去る水のように

扉を開けたなら
鍾乳石の聖母像におなりなさい
掛けられた詩の中から
好きな一節を注文しなさい

そして失くしてしまったものたちと
砂漠の大河を船で下って行くと良い
記憶の瀝青から骨製のロケットを拾い上げ
幻惑の炎のように一言も発することなく

何度でも角氷を暗いグラスに沈めなさい
薔薇のタトゥーが開き切る前に
手をのばし何度でも殺してしまいなさい
蜘蛛の娘が悲哀を編み上げてしまうその前に

朝は黙殺し
夜は沈黙します
昨日の歯の間に蒼い心臓は震え
鎮魂歌のように彷徨いながら昇るのです

店主は水パイプに油絵の静けさを湛え
ここでは誰もが古い地図を巡る旅人です
愛の幽霊のショールを纏い
消えた瞬間の蝋燭のように

闇に白く
  微笑みなさい










自由詩 地下のカフェで Copyright ただのみきや 2013-07-10 23:54:22
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