夜叉姫
イナエ

ロシアでもドイツでも
三人兄弟の末っ子は
けなげでありたくましい

日本の三人姉妹の末っ姫は
異界に嫁いで人間世界を救う

水の不足は命の危機
日照りの続く田の畦を這う小蛇と
交わした父の約束

水をたたえた田を従えたイケメン武士
に嫁いだ姫に三枚の鱗があったとか
それは後の噂
たとえ 鱗は無くとも

里帰りの日 行水を覗くなと
言い置いた約束

  人間の好奇心の強さと
  約束を守れぬ心の弱さは
  竜の姫をのぞき見る

怒り雷鳴を残して天に登った竜は
謝り追う人びとの前に巨岩を落として
道をふさぎ
人界を遠く離れた湖に籠もったけれど

山奥の湖に水請いする風習は
受けつがれ 語り継がれる
姫の優しさよ

日照りの夏
供え物を持って険しい山を
幾つも登り雨乞いする里人
に応える
姫の優しさよ


自由詩 夜叉姫 Copyright イナエ 2013-07-07 15:22:10
notebook Home 戻る