何でもない。
吉澤 未来

『何でもない』


昔、学校の教室の中で
あった話

とある日
西日が射し込み
薄暗い教室の中を照らしていた

放課後の居残りで僕は自分の席に座っていると

君は
僕の後ろから近づき
後ろに立って
何気なく
肩を「ポン」とたたいた


君の顔も姿も、教室の匂いもほとんど覚えていないけれど
その言葉だけは覚えている


「何でもないよ」

何でもないワケはないのに
何でもないというその言葉で
伝えられ
そして
得られたものは

僕たちの一瞬の孤独と
その確認作業だったと
気付いたのは今になってからだ

いきなり近づいてきて
いきなり肩をたたかれて
「何でもない」
そう言われたら
誰だってびくっとするじゃない・・・

今思い出しているこの光景は
今は大人の僕たちには見つからない
過去の僕たちの一瞬のドラマだったと
知るのだった

大人になったら簡単に出来るもんじゃない
「言わなくってもわかってる」
とか
「言っても仕方ない」
とか

本当に「何でもない」
ような寂しい形容で帰ってきてしまう

過去の今日のような日に
あなたが言ったあの「何でもない」
という言葉

言った後に見せた
寂しく、恥ずかしいような
でも
あたたかい孤独な表情

一瞬をぬくもりと感じた僕

気付いたら
あなたは走り去ってゆくのだった

僕の心の中にも
あなたの澄んだ横顔にも
時間がたってから
すっと一瞬の喜びが
現れ、消えていく今というこのときまで

あの時感じた
互いの「孤独」

そこからくる
互いの「幸福」は
今もまさに続いているのだった



自由詩 何でもない。 Copyright 吉澤 未来 2013-07-07 10:12:31
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