声は凱歌を歌う前に
平瀬たかのり

 まっピンクゴール裏
 アジアチャンピオンズリーグ決勝トーナメント一回戦一発勝負
 ダービーの息はずっと過呼吸
 おぉ バモス セレッソ
 セレッソ セレッソ バモス セレッソ
 おっおっおー おっおっおぉー
 つっぶっせーガンバ

  〈かつて会は、なるべく会員を増やさない方針だった時期があった。〉

 声は嗄れながら歌を続ける
 力こぶが振り上げている旗、旗、旗

 あれはもう七年も前になる
 1‐7の試合と
 泣きながら帰る少年を
 ぼくはここで見た

  飛べないやつセレッソ!
  勝てないよおまえら俺たちに!
  J1に最初からずっといる
  優勝もしたアジアも制した世界三位にもなった
  俺たちが大阪さ!

  〈理事が推薦する人数も制限があったと聞く。〉

 ピッチ中央から滑らかにパス
 行けタカハシ 右サイドを追いつけ
 
  〈詩人とは精神のエリートで、会は一種の聖域であるという自明の認識から、〉

 振り抜かれた脚
 クロスボールじゃない
  (詩人とは精神のエリートで)
 シュートが一直線
 重力を
 伸びきった腕を
  (会は一種の聖域であるという)
 ニアサイドを
 ぶち破ってぶち抜いてぶっこ抜いて
 ゴール!
  (自明の認識から)
 
 後半四十二分
 万博競技場アウェイ芝生席
 拳は一斉に夜空を突き上げて
 選手たちが駆けてくる
 
  〈意識レベルが低い人に俗塵を持ち込まれたくなかったのだ。〉

 とうとう笛は鳴って
 なみだ汗鼻水崩れ落ちる化粧
 もみくちゃ雄叫びの渦
  (意識レベルが低い人に)
 少年よここにいるか
 君はいくつになった
 勝ったぞ
  (俗塵を持ち込まれたくなかったのだ)
 ぼくが選んでずっと大好きなままで
 きみが選んできっと大好きなままの
 セレッソ大阪が
 ガンバ大阪に
 今、勝ったんだ
  
  〈みなさんもその気持ちはおわかりだろう。〉
 
 言葉よ
 ぼくはまちがっているのだろう
 それは正しいのだろう
 ならば声よ
 まちがったまま
 凱歌を歌う前に
 吠えてつんざけ
 おまえに耳を塞ぐ
  (みなさんもその気持ちはおわかりだろう。)
 敵を
 
 
 (〈〉()内引用部、2011年、現代詩人会会報に掲載され、HPに公開されていた同会当時某理事の『入会担当者からのお願い』の冒頭部分)


自由詩 声は凱歌を歌う前に Copyright 平瀬たかのり 2013-07-04 20:14:57
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