疼きこそ、その時.
ヒヤシンス


過ぎ行く風物の色合いに必死に溶け込もうとする人々。
たなびく雲がうすれゆく月を地球の裏側へ隠す。
四方に鋭白の輝きを放つ太陽が抒情の扉を閉ざす時、
ある志を持つ者はその心底に広がる大海原で出航の準備を始める。

ああ、しかし私の頭上に浮かぶ帆船は頼りなく、思考は波風に煽られ帆柱に絡み付く。
それはなんとはかない船出、己が己の知恵の輪に勤しむ姿こそは。
一番背けたいものを凝視せねばならぬとは。
磨いたはずの甲板に迷いの蜘蛛の巣があらわれ、黒い水鳥が船底を啄んでいる。

潮の満ち引きに比例するものの匂いを嗅げ。
目の前をゆく渦巻きがあちらこちらに表出し始めたのだ。
自然の驚異がこの胸の中に去来することは理由にもならない。

今すぐ新たな港に停泊しその錨をおろせ。
漂う時空の味覚を知り、あの滴る水を飲み干せ。それこそは忘却の泉だ。
メタモルフォーゼ。己が志こそを進め。今こそ決別の旗を掲げよ。


自由詩 疼きこそ、その時. Copyright ヒヤシンス 2013-07-02 23:35:40
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