天寿
小川 葉



ペットショップで
赤ちゃんを買ってきた
うまく育てれば二十年生きますと
ペットショップの人に言われた
赤ちゃんはかわいかった
けど次第におとなになって
すねたりして
おとなしくなっていった
赤ちゃんの形のまま
赤ちゃんの大人になっていった
言葉は理解していた
けどみずから言葉を発することは
死ぬまでできなかった
二十年育てて
赤ちゃんは死んだ
死んだ赤ちゃんは
赤ちゃんの体のまま
飼い主を愛し
飼い主に愛され
死んで墓に入れられた
わたしも六十歳になった
また新しい赤ちゃんをペットショップで買い
また二十年育てることは難しいだろう
赤ちゃんを何度も育てた
けど赤ちゃんは大人になることはなかった
わたしも大人になれないまま
赤ちゃんの形のままだった
人の寿命はいつからか
長くて二十年になっていた
わたしは生きすぎた
天寿である



自由詩 天寿 Copyright 小川 葉 2013-07-02 23:00:30
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