雨が硝子を 舐めるので
時間すら 舐めまわすので
歩くことの意味や 進むことの意味も舐めるので
この世界には もう 紫陽花しかありません
飴細工のように 雨に舐められて
窓の向こうの景色は いつもゆがんで
たたずむことの意味や すべての言葉の意味も ゆがみます
ただ紫陽花だけが 四角四面の彩を ひとつひとつ ひろげています
ある日 目にも あざやかな赤い花が咲きました
血潮の飛沫のようです しかし 血の匂いなどは いたしません
はて なんの においでしょう。懐かしい匂いです
かすかに甘い。そうそう これは 血が乳となった日の匂いと似ています
世界は もはや 砂糖菓子になりました
人も花も建物も 舐めつくされて 乳よりも甘く薫っています
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初出「あなたにパイを投げる人たち」の即興ゴルコンダ(仮)に投稿。
http://anapai.com/CGI/cbbs/cbbs.cgi?H=T&W=T&no=0
タイトルは 星子アヤノさんです。