Ω(オメガ)カーブ
西天 龍

中央アルプスと呼ばれるこの山々は
今でも年間数ミリ隆起しているという
主峰、木曽駒ケ岳の山頂からでも見えない
はるか太平洋の海底の
大いなる力に押されて

遠州灘で雲になった水蒸気は
天竜川を真北に遡り
この地を水と緑と命で満たし
そして
あちこちの山里に神話とひそやかな祭を隠した

古代からの通い路といわれる街道は
ふもとを等高線に沿って南へ還っていく
道は、時おりアルプスから流れ出す急峻な谷で遮られるが
この地の人々は風景を切り裂くような高い橋を
決して架けようとはしなかった

道は行き当たると谷底を目指して寡黙に降りてゆき
渡渉してまた対岸を登る
そんな道筋のことを
いつしか旅人は親しみを込めて
Ω(オメガ)カーブと呼ぶようになった

最短距離で生きることに疲れたら
遊びにおいでよ 都会に住む君
南行のため、西行と東行を繰り返すことを厭わない人々が暮らす
時と自然との折り合いが織り成す
命輝くこの山里へ


自由詩 Ω(オメガ)カーブ Copyright 西天 龍 2013-06-22 08:32:16
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