Relaxin' 〜或る午後に
ヒヤシンス
気がつけば雨は雪。
創造の世界では初夏でも雪は降る。
なんて自由な空間。ぽーんと抜ける空間。
木曜日の午後の喫茶店。
一年中飾られているクリスマスツリーに暖色が宿る。
今日のローズヒップティーは涙の味がする。
ふと振り返る人生。幸せな人生。幸せだと思い続けてきた人生。
窓辺のサンタクロースがすべての感傷を優しく包む。
目の前に開かれた白紙の日記帳をどうしようか少しためらい、書き付けた文字一つ。
「愛」
この世が愛で満たされれば良いのに。
愛の咲き誇る鮮やかな草原に寝転び、清らかな風に吹かれ、のんびり空を眺める。
ゆったりとうっすらと雲が流れてゆく。僕はまっすぐにそれを愛する。
いつの間にか世界で一番愛している人が僕の傍らに腰掛けて、静かにささやく。
「愛って良いね。」
微笑みながら僕は彼女の手をとり、愛色の花を一輪手渡す。
彼女は流れ行く雲と同じように流れてゆく人生をまっすぐに眺める。
芳純な香りに包まれながら、お互い手をやわらかく握り合って二人、澄んだ空を見る。
「いつまでも一緒にいよう」
時の経つのは一瞬だけど、今このひと時に永遠を感じる。
「愛」の一文字にこんな風な感じを覚えて、窓際のサンタに微笑む。
今、愛で満たされた日記帳をゆっくり閉じて、飲みかけのローズヒップティーを眺める。
これが今まで流し続けてきた涙だとすれば、たいした量じゃないな。
残りのワインレッドの涙を飲み干して僕は店を出た。
雪はしんしんと降っている。額に手をかざして空を見上げると、雲間に青い永遠が見えた。
まだ生きられる。今生きていられる事に感謝して、僕は自分の心に微笑む。
そうやって僕は木曜日の午後を過ごしたんだ。