死に魅せられた女の顛末
茜井ことは

   1

ぬくもりを知ってしまったぶんだけ
喪失は獲得よりもいつも大きい
穴を塞いだところで
爛れたままの周辺が孤独を告発する

   2

大木の幹の裂け目に光るどんぐりに
ひとりの少女が誘われて
か細い手首をそこに収めた
ところがいくら腕を挿しても
きかん坊の薬指が
獲物を奥へ奥へと押しやるので
フラストレーションは高まるばかり
追いかけっこのお終いは
少女の拘束と引き換えだ
そんな哀れで貪欲な少女を
抱きあげてくれる母親は
まだこの世にいるのだろうか

   3

一向に現れない母親の行方を知っているのは私だけですが
「母親」というものを私はあいにく思い出せません
証拠隠滅
鉛筆は燃やしてしまえ!

   4

喪失は
現実と空想と
どちらで多く起こるだろうか
少女のかなしみは
どんぐりと母親の
どちらがもたらしたものだろうか

それを決めるのはあなたです

   *

大人になった少女は
幼稚な詩が印刷されたわら半紙を
細く長くちぎり続けている
だから今日の夕飯には
きんぴらごぼうが出るのだろう




自由詩 死に魅せられた女の顛末 Copyright 茜井ことは 2013-06-21 17:09:20
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