六月の朝に寄せて
佐東

「水の中の六月」

錆びた鉄の味のする手摺を伝って
空っぽの水槽を満たそうとする早朝
浸水された浴槽の縁を滑らないよう歩く
生まれた時から水に溢れていた




「駆け落ち」

花の色に名前を付けた空は
産声を撫ぜる事もなく
赤いケトルの唄う甲高い湯気の手を取り
薄手のカーテンを揺らす旅立ちの合図
少し焦げた目玉焼きの匂いだけを残して
遠浅で停泊中の船の吃水線に触れるまで
あと少し




「白い魚」

日だまりが咲いている
道道に
白い日だまりが咲いている
鱗の無い白い魚が
日だまりの中に棲んでいる
日だまりの数だけ棲んでいる
よく晴れた日の朝
白い魚は
水面に現れては水滴を跳ね上げる
跳ね上げられた水滴は
つぎつぎに日だまりを生んでゆく
やがてそれらは
一つの大きな白い日だまりになってゆく
大きな白い日だまりには
大きな白い魚が棲んでいる

魚を見た者はいない

雨の体温だけが
伝わってくる




自由詩 六月の朝に寄せて Copyright 佐東 2013-06-19 10:29:42
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