森林限界
月乃助
Please take it away.
It makes me lose myself.
森は、
そこも かしこも
ひぐらしの みぢかき命をしぼる鳴き声
高嶺へとつづく山道の
人の道にも にているよう
いつか気づけば、
人の群れをさまよい出て、
雑踏の音は、喧騒の蝉時雨
林立するビルのごとき 森林地帯をぬけると
その先は、生きものをけしてゆるさぬ 砂漠が、
広がっていた…
舞台:砂漠
後景:雲隠る森林
照明:自然発光の不知火か狐火
音響:風の音
Cast:少年(日本人のみ可)
繰言をはく蛇
( 中央で、白々と砂があかりを はなち始める )
二人きつく抱きしめあう 子を亡くした夫婦や
ひとり 痴呆に佇む老人や
金しか食べられぬ 女やら
砂丘の果てに
朱の鳥居が、傾いでいたり、
日章旗のもと
血だらけの兵士たちがうずくまり、
涙する慰安婦が、股をひろげている
あそこにも、確かに人間限界の
世界があった
今は、
( 砂のうえに揺らぐ 椅子にかけた少年 )
少年 「期待という重荷をしわよせる 父さんが憎かった
蛇 「そうかい、母親はどうだい?
少年 「笑顔に体裁という鎧を引きずる 母さんはうんざりだ
蛇 「だからやったのかい?
少年 「逃げ場なんて ありゃしないじゃないか
僕は、手首をきるくらいしか
僕を たすける ことができやしない
それとも、いっそ…
蛇 「象か鯨だったらよかったのに、
あの皮膚だったら すこしの傷など
痛みさえもないだろうに
おまえさんは、残念なことにヒトだからね
少年 「どうしろっていうの?
今度は、本当に死んじゃうかも
蛇 「お前は、歩みをしらない乳飲み子なんかじゃないからね、
甘えられないってことさ、
手のひら一杯の薬を飲んで、眠るのさ
悲しみをわすれるために
誰だって砂漠の領域を持っているからね、
少年 「それから?
蛇 「簡単さ、
生きるのさ
( 少年が、首をふりながら 立ち上がり砂漠から去る )
( 砂漠は、光りを失い 闇がおとずれ、 )
蛇 「どうしてか、
ヒトはものごとをいつも複雑に さらに混沌にする
その必要など、少しもありもしないのに
それを、証明するのか
蛇は、すっくと立ち上がり 背伸びをすると
山道を 二本足で歩き去った
あとには、蝉時雨ばかり そこも かしこも
I am afraid that I lost myself again.
Please show me the way out.