殺しの記憶
atsuchan69

 その場所へは、けして女たちは近づけなかった
 淫らな忌避の場所をひらいて渡来のひとのごとく片足を立て、
 障子戸からこぼれた露わな月日に焼けて黒ばんだ太い柱に背を凭れ
 毛深き勇者は衆道の男どもへと芋の酒をふるまう

 つぶした鶏の生肝だの、刺身だの、
 ひえもんとりみたく奪い合っては口にして
 酒に火がつくと相手かまわず押し倒して殴る蹴るをはじめる
 そんな乱暴沙汰もやがて男同志の抱擁のまま収束し

 今で。しゃ、を斬りに行っど!
 酒に酔った勇者の一言で野郎どもが立ち上がると、
 とつぜん、あばらな農家へ押し入ってまだ若い夫婦の片割れを
 幾度も、幾度もの、荒い太刀によって惨殺せしめた

 女は、泣きわめいて夫の傍でしゃがみこんでいたが
 すぐに襟ごと引き摺られるとやがて両刀の男たちに輪姦された
 残忍な夜の出来事が、間もなく殺される女の悲鳴によって閉じようとしていた。
 それは去年、年貢の納められなかった者の村人への見せしめでもあった

 ――もどって酒ば飲も。えのころ食もろごちゃっなあ

 血と、穢れの匂いが男どもの肌に染みていた
 月明かりの夜道を、
 幾千匹もの蛙たちが一斉に‥‥
 狂おうしい念仏を声高らかに唱えて邪な彼らを見送った
 


自由詩 殺しの記憶 Copyright atsuchan69 2013-06-17 00:19:47
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