手紙
笠原 秋人

好きな人できてん
って、お前がゆうたとき、俺の心臓らへんかなぁ、もう少し下の方か奥の方か、なんやわからんけど、ズンッて、めっちゃ重たいもんが乗っかったっていうか、なんやろ、血の気が引いたって、正にあの事なんやろな
でも、多分な、前に話してやん
俺、相手に好きな人できたゆわれたら、何も言えんなるゆうて、多分な、せやからお前、好きな人できたゆうたんやろなって思うんやけどな
でもな、例えそれがお前の取った最良の策やとしても、それは違うと思うんや
そんなん言われたら、俺かて裏切られた気持ちなって怒り狂うに決まってるやん
怒り任せにお前の事傷つけてまうがな
愛か情か、もうわからんようになってきたっていうけどや
俺らいくつやねん?そら俺かてトキメキたいわ、せやけどな、お前が洗濯もん畳んでくれてる背中とか、俺がめしくってんの嬉しそうに眺めてる顔とか、洗いもんしてくれてる時の横顔とか、そういうもんが俺の居場所に染み付いてきて、
一緒に寝て、起きる、そんときの顔とかめっちゃ不細工かもしれんけど、そういうもんがなんかジワァって心の中に広がってきて、たまに嬉してたまらんようになったりせえへんか?
そら、派手なトキメキとかあらへんやろ
せやけど、手繋いで買いもん行って、めし作って、風呂入って、寝て、起きて、いってらっしゃいっていう
その繰り返しかもしらんけど、そんな繰り返しの日々がゆっくりと過ぎていって、いつか死ぬときに、お前と、あんたとおって良かったわぁって言うて死んでいく
そんなもんが、たまらんぐらいよかったりするもんなんちゃうんか

お前が去っていくとき、何でか、ありがとう言うてやられんかった
いっぱい色んなもんもろて、形やあらへん、もっともっと、弱くて小さくて、すぐ壊れるもんやけど、いっぱいもろたのに
ありがとう言うてやられんかった事、ほんまにすまんと思てる
せやけど、カッコつけて幸せなりやとはよう言えんかった。
いつか笑いあえたらええなぁなんて、ようカッコつけれんかった。
俺は弱いやつや、強いあんたが好きやゆうけど、お前がそういう弱い部分支えてくれたら、いつまでも、俺は、お前が好きやった強い俺でおれたんや、俺かてライオンやないんやから
せやけど、まちごうてたんやなぁ
強いままでおったら、二人はずっと一緒におれたんかなぁ
例えば、足らんもんを補い合って、言いたい事言い合って、喧嘩して、セックスして、仲直りして、そうやって一つになって生きていく、そう思てたけど、ちゃうかってんなぁ

お前が残していったもん
整理しながら、お前の事、思い出してる
この部屋そのものがお前みたいなもんやから、なんぼ整理しても、なんや心臓のもっと奥らへんか、どっかわからんけど、その辺からグゥっと込みあげてきて、喉がめっちゃ乾いたりして、怒りや憎しみや悲しみや虚しさか
もう、なんやわからん感情が一緒くたなって、グチャグチャなって
あほみたいなって
でもな、お前には多分、この先
会うことないやろし、あれやけど
全部片付く頃、ゆうか、一つ一つ片付けるたびに
お前に言えんかった、ありがとうを、せめて言いながら片付けようおもてんねん

よう考えたら、ほんま、めっちゃ幸せやったなぁ









自由詩 手紙 Copyright 笠原 秋人 2013-06-16 17:24:55
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