遠い空、あしもとの街、懐かしい歌、半睡の日
ホロウ・シカエルボク







「昨日」という
ダストシュートに
投げ込まれた
ままの時間


グラスの底で
震えながら
死を
待っている羽虫


声も出さないシンガーが
テレビで歌っている
「勇気」とか「未来」
そんな言葉ばかり


窓は汚れっぱなし


世界が世界として
ひとつずつ時を殺して行く
腐敗するそれに埋もれる
溶けた氷が崩れるように


朝からの雨に濡れ続けた街
空を泳いできた水の匂いがする
日は落ちて
タイヤが水溜りを撥ね飛ばす音がこだまする


ロックンロールミュージックとインスタントコーヒー
未来におけるノスタルジアを愛している


長い昼寝のせいで
首を痛めている
進めたいことがあるけど
当分手を出す気もない


じっとしているのに
汗が滲んでいる
火で炙られたナイフを
突き付けられているみたいに


夜明けまでの膨大な時間に
刻めるものを探すのかい
塗り潰された昼間を
弁解するためのなにか


埃が溜まり始めたカーペット
拾うのはもどかしい
掃除をしようと思いながら
今日も間を外してしまった


表通りで汚い歌声を上げる酔っ払い


夜が切りつける
夜が切りつける
夜が切りつける
夜が切りつける


裂傷をさらそうか
そんなものがなにを語るのか
甘い甘いパウンドケーキと
対極に居ながら同じようなそんなものが


流れる血を舐めると
摂り過ぎた砂糖の味がするさ


胃袋には
もう覚えていない晩飯があり
手のひらには
いつ出来たのか判らない打撲のあと


ポエット?
ハローポエット?
今日も上等な詭弁かい?
今日の分の傘を明日の晴れた空の下でさすのかい?


お前の真理などどうだっていい
それは俺には必要の無いものだ
お前の歌声など無くたって構わない
心の底まで染み込んだものがあるんだ


グラビアのページをめくると
気がふれるような吐気に襲われた
洋式の便器は抱きやすい
だから容易い嘔吐が増える


ロックンロールミュージックとインスタントコーヒー


秒針の無い時計が増えて
時間を気にすることが無くなった
たとえ表示が見やすくなっていたって
それは関心とはまるで別の話だ


遠い空
あしもとの街
懐かしい歌
半睡の日


いつか呼びとめられた時の声の調子を
今頃になって思いだしたり
いつか言えなかった大事な一言を
今頃になって口にしてみたり


センテンスはほころびる
そこに確信があったとしても
千切れて
道端のコミックみたいに


あんたの叫びはそこまで
安全圏に居るからさ
弾の届かないところに居れば
叫んだって届くわけないのさ


暑い夏だ
眼球すら悲鳴を上げている
人を殺すダニがやってきて
突然の審判を下そうとしてる


それが出来るのは
やつらが単純だからだ
考え込むこともなしに
それを続けられるからだ


俺はキーボードに手を張り付けて
毎日自分をほじくっている
思いもよらない羅列ほど
激しく自分だと感じている


世界のいくつかは繋ぎとめられ
あとのいくつかはこぼれ落ちて行くだろう
残ったものと失くしたものの狭間で
また人生はひとつ死に向かうだろう


明日目覚めた時に
枕に染みついた涎
そのウンザリするような形状について
出来ることなら俺は綴りたいと思う







自由詩 遠い空、あしもとの街、懐かしい歌、半睡の日 Copyright ホロウ・シカエルボク 2013-06-15 22:05:25
notebook Home