また明日
nonya


「あいつどこ行ったんだろ」
「ずっとオニやってたもんな」
「怒って帰っちゃったんじゃないの」
「あいつヘンジンだからな」
「もうそろそろ帰ろうか」
「帰ろ」「帰ろ」
「それじゃ」「また明日」

遠い日のカンケリ
トラクターの下にもぐり込んだ
あまりにも無謀な僕を
誰も見つけてくれなかった

慌てて這い出した僕の足元で
空缶の細長い影だけが
とろけた夕日に浮かんでいた

いつもやりすぎてしまう
書きかけの自画像の僅かな余白まで
正体がなくなるまで塗り潰してしまう

いつもやりすぎてしまう
気がつくと遊びと本気の境目が消えて
帰れないほど遠くに来てしまっている

「あいつどこ行ったんだろ」
「まだゲーセンにいるんじゃねえの」
「いい歳して好きだよなあ」
「ストレス溜まってんだよ、きっと」
「俺そろそろ帰るわ」
「俺も」「俺も」
「それじゃ」「また明日」

慌てて声をかけようとして
思わず言葉を飲み込んだ
空缶の細長い影が夕日の中に
一瞬だけ見えたような気がした

「仕方がないさ」
唇の端に薄笑いを灯して

人を喰ったことがないオニは
自分の影を折りたたむように
闇に向かって歩き出す

言えなかった「また明日」を
吐き捨てられたガムのように
かかとに張りつけたまま





自由詩 また明日 Copyright nonya 2013-06-15 11:40:58
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