あの猫の名前はマダナイっていうんだ、
sample

天国という名の池で
死を釣り上げる人がいる
町の猫たちは真夜中に駈けだし
虹色に輝く死を銜えるために
釣り人の周りに群がっている

僕の猫は平成十四年、夏
朝ごはんを残して
そのまま帰ってこなかった
七月二十日、僕と家族は
その日を命日とした

天国という名の池で
死を釣り上げる人がいる
猫は秘密主義だから
そこがどこだか教えてくれない
釣り人だけが、知っている

釣り上げられた
死を銜えた一匹の猫が歩いてゆく
行き先はだれも知らない
背中を丸めた、釣り人さえも
猫の最後は知らないのだ


自由詩 あの猫の名前はマダナイっていうんだ、 Copyright sample 2013-06-15 01:20:05
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