墓地にて
ただのみきや
風の愛撫に
はらり ほろり
八重桜が泣いた
すらり と知らん顔
真新しい翅を輝かせ
トンボは行ってしまう
墓地への細道
静かな午後
まだずっと若かったころ
感性は魚のよう
きらりと水面を跳ねていた
それは奔放で捕まえにくく
思い通りの生簀に入れる
手管に欠けていたのだ
齢を重ねるごとに
感傷は募るばかり
万物から酒を注がれて
――滲みてくる――
この杯はもうひびだらけ
むしろ漏らさぬことが酷というもの
風の愛撫に
はらり ほろり
八重桜が泣いた
泣きなさい
薄紅なみだ枯れるまで
わたしも一緒に泣きましょう
さあさ ご返杯
命あっての物種です
黙って聞き入る
冷たい墓石たち