舟を漕ぐ
凍湖(とおこ)

舟を漕ぐ。
昏い水面。
舳先の灯りに、身をよじるさざ波。

ぐっと櫂を引くと、私とおなじ力で、圧し帰してくる
水の確かな、手応え。

立ちこめるミルクの霧を透かしても
目指す岸辺がどこなのか、見当もつかず
なまっちろい私の両腕は、舟を導かないで
ただおなじ場所を、ぐるぐると惑っているだけ
なのかもしれない。

顔をあげ
できるかぎり、あたたかに歌を歌う。
どこかで迷っているかもしれない 見知らぬ友人に届くよう。
不安に屈服するのは、簡単だけれど。

きっとみんな、おなじような航海をしている。
いや、霧中でさ迷っているのは、わたしだけでも
流されるのではなく
櫂を捨てずに、つづける。
漕ぐことも、歌うことも。


自由詩 舟を漕ぐ Copyright 凍湖(とおこ) 2013-06-10 02:49:55
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