罪業
ヒヤシンス


今宵の月は魔物。
天空の漆黒はその臓腑を抉られうっすらと白い血を流す。
私は憤然としてそいつに立ち向かおうとするのだが
姿すら現さないなんて卑怯ではないか。

今宵の月は魔物。
愛すべき我が心の平穏を掻き乱し、時空を歪めてゆく。
ベランダに出でて天を仰げど姿は見えぬ。
ただ、眼下に横たわる湖面に映るはおぞましい顔二つ。

嗚呼、業を煮やす私の心に良心はまだ在るか。
湖面の顔は善と悪。お前は私を試すのか。
一時はお前の下僕にまでなろうと誓ったこの私を。

嗚呼、見え透いた善など悪に等しい。私はとらない。
過去を映す鏡を砕き、湖面の善に投げつける。
悪を選んだ私の心に良心はまだ残っていたのだ。


自由詩 罪業 Copyright ヒヤシンス 2013-06-09 02:38:34
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