初夏の話
とつき

彼の小説には
火事や焚火や花火など火がよく出てくる
彼と銭湯に行った。ここも火に関係あるね
女神にはまだ遠い番台のおばさんが笑っている
そっくりだね。そっくりすぎてウソ臭い
手配書に似るのは運がいい
熱い湯だったが
湯の熱さよりも壁の絵が気になった
俺のかみさんの描く月はもっと上手だ
月はあんなにちんけじゃない
木星だと思ったが言わなかった
ここは痩せた犬がつながれるような無人駅ではない
チェーンの居酒屋でいっぱい
あまり火を書くのはいかがなものか、縁起が悪い
実は俺は火よりも消火が好きだ。消えないと火ではない
火は美しいが、完全に透明じゃないのが残念だなどとごにょごにょ言う
次は島に伝わる秘術がテーマだ
瀬戸内のはずれの島
一撃必殺
一子相伝
差し違え
〜女に可能か 胎児は
火は出ないようだが
そうだな、じゃあそのメモを燃やしてくれ
ここでか
まずいか

母の遺品のぬいぐるみや剥製の目は全部ビー玉。中途半端にはめ込まれて。
無理だな、こりゃ焼けない。恐いね。
まずウミガメ。前のヒレに焼きかけたあとがある。お前か。
チチポポと焦げただけだった。
熱くなってきたな。水の入った彼のペットボトルを光が透ける。
クマもやばいな。綿が飛び出て頭から植物が生えているように見える。
ああ見ているぞ、こっちを。
瀬戸内海の島にクマはいるのか。
見たことないだろう、だからいる。
クマなら殴っても死なん、人間じゃない。殴っても死なんから、術者も死なん。

みかんのだんだんばたけ
へびのぬけがら
ハレテングダケ
少年を噛む少女
けん玉は力を抜いてっていったでしょ
軒下のはりせんぼん出目金
空葬
しゃがんだおんな
まあ恥ずかしい
しゃべると呪われますわよ。
二日酔いだな、ペットボトルの水を飲む
ノアの墓の話をしたっけな
初耳だ
もう夏だ


自由詩 初夏の話 Copyright とつき 2013-06-08 09:51:22
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